災害と保護動物：知っておきたい現状とあなたにできる備え・支援
日本は地震や台風など、様々な自然災害のリスクが高い国です。こうした災害が発生した際、私たち人間の安全確保はもちろん重要ですが、保護動物たちはどのような状況に置かれるのでしょうか。
保護動物たちは、既に一度、元の飼い主との別れや厳しい環境を経験しています。災害は、彼らがようやく安全な場所にたどり着き、新しい生活や家族との出会いを待っている中で、再び大きな不安や危険をもたらす可能性があります。
この状況を知ることは、保護動物を取り巻く課題を理解する上で非常に重要です。そして、知ることで、私たちは災害発生に備え、そして発生した時に、彼らを支援するための具体的な行動をとることができるようになります。
災害時の保護動物が直面する現状
災害が発生すると、保護動物たちは人間とは異なる、あるいはより複雑な困難に直面します。
まず、保護シェルターや一時預かりを担っている個人の家屋自体が被災するリスクがあります。建物が損壊すれば、動物たちは安全な場所を失い、避難を余儀なくされます。また、停電や断水は、動物たちの生命維持に必要な環境を破壊します。
避難所への避難が必要になった場合、動物の受け入れ体制は地域や避難所によって異なります。「同行避難」は、避難所まで動物と一緒に移動すること、「同伴避難」は、避難所の一定のスペースで動物と一緒に過ごすことを指しますが、全ての避難所で同伴避難が可能とは限りません。多くの避難所では、動物は人と離れた場所に収容されるか、受け入れ自体が困難な場合もあります。これは動物にとっても、同行している人にとっても大きなストレスとなります。
さらに、災害発生後は物資の供給が滞りやすくなります。動物に必要な特定のフードや薬、ケージ、トイレ用品などの確保が難しくなります。保護している動物の数が多い団体ほど、この問題は深刻になります。
また、災害によって保護活動自体が停止したり、規模を縮小せざざるを得なくなるケースも見られます。これにより、新たな保護の受け入れが困難になったり、既存の動物たちのケアが行き届かなくなる可能性も出てきます。
事前に知っておきたい「備え」
災害発生は予測が難しいため、事前に備えておくことが保護動物、そして共に過ごす人々双方の安全に繋がります。
保護団体や行政では、災害時の対応計画（BCP：事業継続計画）を策定している場合があります。これには、災害時の動物の避難場所の確保、物資の備蓄計画、緊急時の連絡体制などが含まれます。私たちがこうした団体の活動を支援することは、間接的に彼らの災害への備えを強化することにも繋がります。
個人として、特に保護動物を一時的に預かっている場合や、将来的に迎えたいと考えている方ができる備えもあります。
- 避難計画への組み込み: 災害発生時の避難場所や避難経路を事前に確認し、保護動物をどう連れて行くかを具体的に計画します。避難所における動物の受け入れ状況についても、可能な範囲で事前に確認しておくと良いでしょう。
- 防災グッズの準備: 最低でも5日分（できれば7日分以上）のフードや水、常用薬、療法食などを備蓄します。他にも、リード、ハーネス、ケージやキャリーバッグ、タオル、ウェットティッシュ、予備の首輪や迷子札、動物の最近の写真（迷子になった場合の捜索に役立ちます）、マイクロチップの情報、かかりつけの動物病院の連絡先などをまとめておくと安心です。これらをすぐに持ち出せる場所に準備しておきます。
- 連絡先の確認: 保護を委託されている団体や担当者、緊急時の連絡先などをリストアップし、すぐに確認できるようにしておきます。
- 身元表示: 一時預かり中の動物であることが分かるような表示をケージやキャリーバッグに付けておくと、万が一離れてしまった場合にも情報が伝わりやすくなります。マイクロチップの装着や情報登録が済んでいるかどうかも確認しておきましょう。
こうした個人の備えは、自分自身と預かり動物の安全を守るだけでなく、保護団体の負担を軽減することにも繋がります。
災害発生時にできる「支援」
もし災害が発生し、保護動物たちが困難な状況に置かれた場合、私たちにはどのような支援ができるのでしょうか。
最も直接的な支援の一つは、金銭的な支援です。被災した保護団体や動物関連の支援を行うNPO、あるいは広域で動物救護活動を行う獣医師会などが義援金や支援金の募集を行う場合があります。これらの資金は、動物の医療費、食料、避難所の確保、物資の輸送など、緊急性の高いニーズに応えるために活用されます。支援を行う際は、信頼できる団体であるか、資金の使途が明確であるかを確認することが大切です。
次に、物資支援も重要です。ただし、必要な物資は刻々と変化します。やみくもに送るのではなく、被災地の保護団体や行政などが発表する「本当に必要としている物資リスト」を確認し、それに基づいた支援を行うことが最も効果的です。支援物資を送る際は、仕分けの手間を考慮し、リストにあるもの以外のものを送ったり、開封済み・使用期限切れのものを送ったりしないように注意が必要です。
ボランティアとして現地での活動に参加することも支援方法の一つですが、これは多くの場合、専門的なスキル（動物のハンドリング、獣医療、レスキューなど）や、被災地での活動経験が求められます。また、現地ではインフラが停止していることも多いため、自己完結できる準備（宿泊、食料、移動手段など）が必要です。安易な現地入りはかえって負担となることもあるため、信頼できる団体が募集するボランティアの内容をよく確認し、自身のスキルと状況に合わせて判断することが重要です。後方支援として、物資の仕分けや発送、情報整理といった活動を募集している場合もあります。
また、災害に関する正しい情報収集と共有も大切な支援活動です。デマや不確かな情報が流布すると、混乱を招き、適切な支援活動を妨げることになります。公的な機関や信頼できる団体の発信する情報を確認し、正確な情報のみを広めるよう心がけましょう。
さらに、状況に応じて、被災した保護動物の一時預かりや、新たな家族として迎え入れる（譲渡）ことを検討することも、長期的な支援に繋がります。ただし、これも冷静な判断と、動物を迎え入れるための十分な準備と環境が必要です。
まとめ
災害は、私たち人間だけでなく、保護動物たちの命や暮らしも脅かします。しかし、この現実を知り、一人ひとりが事前に備え、そして発生時にできることを行うことで、彼らを救うための大きな力となります。
災害に備えることは、自分自身や自分の大切なものを守ることにも繋がります。そして、保護動物たちのために行動することは、社会全体の防災意識を高め、動物福祉の向上にも貢献します。
いつ起こるかわからない災害ですが、事前の「知る」と「備える」が、多くの命を救う第一歩となります。そして、災害発生後には、状況に応じた適切な支援を検討してみてください。あなたの関心と行動が、困難な状況にある保護動物たちの希望の光となります。